読書レポート

シベリア抑留記『黒パンと交換した腕時計』を読んだ感想

シベリア抑留 アイキャッチ

『シベリア抑留体験を語る会』会長の建部奈津子さんが書かれた、シベリア抑留記『黒パンと交換した腕時計』を読みました。

『黒パンと交換した腕時計』は、クラウドファウンディングの寄付金で作られた本です。

このブログでは、シベリア抑留記『黒パンと交換した腕時計』を読んだ感想を紹介していきますね。

シベリア抑留記『黒パンと交換した腕時計』とは?

黒パンと交換した腕時計

主人公の吉田欽哉さんの戦争と約4年に渡るシベリア抑留体験がリアルにわかりやすく書かれている本です。

大正14年生まれの吉田さんは、2022年2月現在も96歳の現役漁師さんであり、シベリア抑留体験の語り部なんですよ。

著者の建部奈津子さんは本業の傍ら、シベリア抑留研究をされていて「シベリア抑留体験を語る会札幌」の会長でもあります。

建部さんは数年前から利尻島まで足を運び、吉田さんのシベリア抑留について熱心に取材されていました。

私はおふたりとお話をしたことがあるのですが、ふたりの間には友情というか絆みたいなものが感じられて、祖父と孫?父と娘?のようなほっこりした空気感を感じるんです。

シベリア抑留 吉田さんと建部さん

この本からはお二人のシベリア抑留体験を若い世代に「伝えたい」という情熱を感じました。

シベリア抑留というと「戦争関連で歴史の難しい話し」というふうに感じてしまうかもしれませんが、小学生でも読めるようにわかりやすく全てにふりがながふってありますし、カラーの挿絵もあります。

2022年の令和の時代に、シベリア抑留体験をされた方がまだご存命で、その方の体験が本になるという希少な一冊なんです。

吉田さんの戦争体験

シベリア抑留 吉田さん01
イメージイラスト:多摩手はこ

吉田さんが昭和19年に19歳で兵隊に招集されたところから、戦争体験のお話が始まります。

衛生兵になり一生懸命勉強されたこと、軍隊での辛い訓練の体験や、陸軍病院での病人の手当をされてことなどが書かれていました。

樺太で終戦を迎えて吉田さんが喜んでいるくだりは、私も心から「よかった~!」と思ったのに、日ソ中立条約を破ったロシア軍が豊原を空襲してきます。

豊原空襲の経験は、悲惨すぎて読んでいて涙が止まらなくなりました。

シベリア抑留生活

終戦したのに、吉田さんはソ連に騙されてシベリアに連れていかれ、約4年にわたる過酷な日々が始まります。

シベリア抑留といえば極寒・飢え・重労働の三重苦。

大半は抑留者の絶望と苦難の日々について書かれています。

不衛生な環境で、過酷な労働と寒さと飢えで毎日誰かか亡くなっていました。

シベリア抑留 吉田さん02
イメージイラスト:多摩手はこ

作業中に見つけた蛇やカエル草木など、食べられるものはなんでも食べて生き延びたんだとか。

以前吉田さんにお話しを伺ったときに、このときの様子を「自分たちは野生の動物と同じだった」と言ってたんです。

いつ死んでもおかしくない状況で「こんなところで死ぬこものか」という吉田さんの意思を感じましたね。

捕虜って戦場で敵に捉えられた兵隊さんのことだけど、読んでいると奴隷というイメージのほうがしっくりくる感じです。

タイトルの『黒パンと交換した腕時計』は、吉田さんの隠し持っていた大切な時計を、黒パンに交換してもらったのに同じ日本人に盗まれるというエピソードです。

生きるために大切な形見の時計を交換したのに、同じ日本人に盗まれるの悲しすぎる…。

私は今までシベリア抑留についてなんとなくしかイメージ出来なかったのですが、吉田さんを通じてちょっとだけ知ることができました。

でも自分が経験したことじゃないので、実際のリアルな苦しみは到底想像することができません。

最後は帰国が決まって吉田さんが生きて帰国してくれて本当に良かったな、とホッとしました。

あと意外だったのはライハチとう収容所では食べ物や環境が他よりも恵まれていことや、帰国船が出ているナホトカで買い物ができたり、帰国するときにはソ連の将校が送別会を開いてくれたりしたことですね。

最後は送別会でもてなしてくれるって謎だな〜と思いつつも、シベリア体験には様々なケースがあるそうです。

吉田さんは根っからの漁師で、帰国が決まっときもこんぶ漁のことを考えていたそうですよ。

吉田さんの語り部としての活動

今は積極的に語り部として積極的に活動する吉田さんですが、活動を始めたのが90歳からなんだとか!

90歳になったときに、人生でやり残したことがないか考えたときにシベリア抑留で亡くなった仲間たちが心に思い浮かんだそうです。

それから講演会でシベリア抑留について話されたり、2019年には厚生労働省の遺骨埋葬地調査班に加わりロシアにも再訪されているんですよ。

吉田さんはいつもニコニコしてて明るくて前向きな印象ですが、語り部のときは当時のことをまざまざと語ってくれます。

ちなみに吉田さんは利尻町の観光チャンネルにも協力してて、広報活動もされています。

▼こちらのサムネイルと、おじいさん3人の一番右が吉田さん。

90代のおじいさんたちが島のために一肌脱いでてすごい!

さいごに

今はコロナがいつ終わるかわからない状況で、私も思い通りに生活できなかったり、仕事が減ったり楽しいことがなくなって落ち込んでいたこともありました。

でもこの本を読んでふと思うんです。

たった76年前の出来事に比べたら、お腹が空いて困ることもないし、寒くたって灯油ストーブもあるし、きれいで暖かい服もある。

現代の価値観と比べるのは違うかもしれないけど、祖父祖母、曽祖父や曾祖母の時代の戦争体験を知ることで、生きていく視野が広くなると思うんです。

「知ること」って大事だなと思いました。

吉田さんは、自分の子供達や孫達にはこんな経験をさせたくないという、信念を持っています。

正直、私も含め子供の頃って戦争の話を聞いてもピンと来ないんですよ。

そっかそんなことがあったんだなぁ~くらいしか。

でも触れる機会があれば、きっとじんわり伝わっていくと思うんですよね。

平和な世の中でいるのって、「戦争をしないぞ!」って声高らかに宣言するんじゃなくて、日常的に思いやりをもって人に接するとか、家族と仲良くするとかそういう簡単なことから出来るんじゃないのかなと、この本を読んで改めて思いました。

シベリア抑留記『黒パンと交換した腕時計』はどこで入手できる?

残念ながら、『黒パンと交換した腕時計』は非売品です。

ですが、札幌市の図書館に20冊寄贈されたので図書館で借りることができますよ。

全国の選定した図書館200館と点字図書館77館、主人公の吉田さんが住んでいる近隣の稚内市、礼文島の全ての小学校に寄贈されているそうです。

近くの図書館で借りることが出来るかもしれないので、読んでみたい場合は問い合わせてみてくださいね。

ABOUT ME
多摩手はこ
北海道札幌に住んでいます。フリーランスで漫画・イラスト・ライターのお仕事しています。